厄除けの寺 由加山蓮台寺 岡山県倉敷市
法話の中では、皆さまに身近なことがらを題材に、わかりやすくお話をさせていただきます。
私は朝いちばんに、瑜伽三尊をおまつりする総本殿に向かい、本尊十一面観音菩薩、鎮守神瑜伽大権現、宗祖弘法大師のご宝前におつとめをいたします。
おつとめが終わり、まず最初にすることは、本坊のお仏壇にお茶をおあげします。
本坊貫主寮のお仏壇は、一般家庭にある仏壇とかわりない小さな仏壇に祖父母、両親などと、主な先師尊霊十数体のお位牌をおまつりしています。その向かいの棚には、妻の両親の写真が置かれ、仏壇とこの写真の前にもお茶をおあげします。
最初、お茶湯には仏具屋の赤絵の茶碗と、人様から戴いた立派な青磁の茶碗を使っていたのですが、青磁はお茶の美しい緑が映えず仏壇備え付けの赤絵は霊前にそぐわない感があり、あくまで個人的な観念と趣向から、自分好みのシンプルな萩焼と清水焼に変えました。
お茶は、常に極上の玉露を使うことにしています。また戴き物の中から最高のものを選びおあげすることもあります。ご本尊やご先祖と同じ物を食べたり飲んだりすることで、仏さまと私たちが、同じひとつの命に繋がっていることを自覚するためにも、ご本尊やご先祖に、朝一番にそそぐ極上のお茶をおあげするのは当然のことであります。そして、生きている我々よりもずっと香り高くおいしいお茶を注ぎ手を合わせ、今の無事なるお護りと、生かされている日々の平安に、感謝する心を養うためのものであります。
私たちの生きる毎日は、さまざまな関係性の上になりたっているのです。特にご先祖との関係は重要です。
そこにいないご先祖も自分の日常を支えているのです。
普段の何気ない思いや出来事にも、自分の家の歴史がしみだし、私たちも過去から連綿と続く時間の一部なのです。
お茶湯や仏飯をおあげするのは、ご先祖への感謝を形として表わす、人間として何よりも一番大切な人としての行いであります。
物があふれてくれば、どうしても人間は感謝を忘れがちです。本来は、物が豊かになれば、心も豊かにならなければなりません。今の日本は逆です。
いつもご本尊やご先祖と共に生きることは、充実した生き方、豊かさにと繋がるのです。
多くの命を奪った東日本大震災被災地のこと、被災者の人々のことを考える時、「仏壇にお茶をあげる」こんなあたり前のことができることの有難さが心にしみ入ります。
第72世 貫主